利己的遺伝子論と血縁度
血縁度とは?
真社会性昆虫のハチやアリは、自らの子供ではなく、女王バチや女王アリが生んだ子供を育てようとする。
なぜ自らの子供を生み育てようとしないのか。
その理由を利己的遺伝子論では、血縁度という考え方で説明をしている。
血縁度とは「個体同士が遺伝子的にどれだけ近いのかを示す割合」のことである。
ある個体が持つ特定の遺伝子が共通の祖先から独立に伝わる経路を全て考え、その伝わる確率を合計した値である。
血縁度の計算の仕方
言葉で書くと分かりにくいので、ヒトを例にとって説明する。
ヒトの子供は、有性生殖によって父親と母親からそれぞれ半分ずつ遺伝子を受け取っているため、特定の遺伝子が子供に伝わる可能性は 50%である。よって、その血縁度は 50%(2分の 1)である。
子供から親を見た場合も血縁度は 50%となる。
上図にあるが、父親からは 2本ある染色体(遺伝子)からランダムに選択された遺伝情報が 1本の染色体(遺伝子)となり子供に受け渡される。
そのため、父親の持っている遺伝情報は 2分の 1となる。これが血縁度 50%と言うことだ。もちろん、母親とも血縁度は 50%だ。
続いて、兄弟間での血縁度を考えてみる。
兄弟間では父親と母親の 2つの経路があるため、それぞれの確率を合計したものが最終的な血縁度となる。
自分 → 父親 → 兄弟 = 50% × 50% = 25%
自分 → 母親 → 兄弟 = 50% × 50% = 25%
25% + 25% = 50%
いとこの場合は、祖父と祖母の 2つの経路があるため、それぞれの確率を合計することになる。
自分 → 母親 → 祖父 → 叔父 → いとこ
= 50% × 50% × 50% × 50% = 6.25%(16分の 1)
自分 → 母親 → 祖母 → 叔父 → いとこ
= 50% × 50% × 50% × 50% = 6.25%(16分の 1)
6.25% + 6.25% = 12.5%(8分の 1)
真社会性昆虫の血縁度の計算
続けて真社会性昆虫のハチとアリについて考えてみる。
実は、真社会性昆虫のハチやアリのオスには染色体が通常の半分しかない。
これを半数体と言うが、ヒトを始め多くの生物には 2本の染色体(遺伝子)があるのだが、半数体には染色体(遺伝子)が 1本しかないのだ。
そのため、子供の遺伝子の状態は下記のようになる。
そして、これを血縁度で見た場合は以下のようになる。
母親のメスから見た娘は、染色体(遺伝子)が 2本から 1本に分かれるため(減数分裂をするため)、ヒトと同じく血縁度は 50%である。
娘から母親を見た場合も同じく血縁度は 50%である。
しかし、父親のオスには染色体が 1本しかないため、娘にはその全てが引き継がれる。
そのため、父親から娘を見た場合は血縁度は 100%となる。
しかし、娘から父親を見た場合は半分は母親から受け取っているため血縁度は 50%となる。
また、父親と息子は遺伝情報を引き継がないため、父親から見ても息子から見ても血縁度は 0%である。
これを踏まえて、「四角で囲んだメス」から「姉妹のメス」を見た場合の血縁度を考えてみる。
メスから姉妹への経路は父親と母親の 2つの経路があるため、下記のようになる。
メス → 父親 → 姉妹 = 50% × 100% = 50%(2分の 1)
メス → 母親 → 姉妹 = 50% × 50% = 25%(4分の 1)
50% + 25% = 75%
血縁度による優先順位
利己的遺伝子論は「リチャード・ドーキンスの「利己的遺伝子論」とは?」を参照していただきたいが、利己的遺伝子論、または、血縁選択説での説明では、血縁度が高いものの方を優先して守るとされる。
真社会性昆虫の場合、先に説明したとおり、自分の娘との血縁度は 50%なのだが、姉妹との血縁度は 75%となる。
自分の娘よりも姉妹の方が血縁度が高いのだ。
そのため、自ら子供を産んで育てるよりも、母親が生む姉妹を育てる方が遺伝子的にメリットがあるため、姉妹を育てることが優先されるのだ。
それによって、働きバチや働きアリは自ら子供を生まず、女王バチが生む姉妹を育てる真社会性を持つ生物が生まれ、自然界に残ってきたのだ。
このように、リチャード・ドーキンスは、自らの遺伝子を残すことが優先されるために「利己的な遺伝子」と呼んだのだ。
ちなみに、働きバチ、働きアリは全てメスであるのだが、なぜメスだけなのかはこの血縁度を考えると明かである。
血縁度に関連する情報
クリントン・リチャード・ドーキンス
Clinton Richard Dawkins。1941年03月26日~。イギリス。
真社会性昆虫
同種の個体が集まる生物の集団の中で、個体間に分業が起こり(様々な階級を持ち)、個体の協力によって個体群全体の生命を維持する昆虫のことを社会性昆虫と言う。社会性昆虫は集団から離れ単独での生存は難しい。
その社会性昆虫の中で「不妊の階級」を持つものを「真社会性昆虫」と呼ぶ。
染色体
染色体とは細胞の核内に存在し、遺伝情報の発現と伝達を担う生体物質で、遺伝子である DNA(デオキシリボ核酸)を含んでいる。
塩基性の色素で染色されることから染色体と名付けられた。
コメント
真社会性昆虫のメス-オス(息子)間、メス(姉妹)-オス(甥)間の→は向きが間違ってませんか?
彦坂和秀さん、コメントありがとうございます。
ご連絡をいただいておりました真社会性昆虫の図の矢印の向き、間違っておりました。
修正させていただきました。ご指摘ありがとうございました。
また、しばらく見ていなかったため、対応が遅くなりました。
2019年3月5日に閲覧しています。「いとこの場合は」の後に、「0.0625%」と記されていますが、それは誤りで、正しくは「6.25%」です。また、「0.125%」と記されていますが、それは誤りで、正しくは、「12.5%」です。
鈴木清さん、コメントありがとうございます。
ご指摘の通り間違っておりましたので、修正をさせていただきました。
コメントをいただいていたことを失念しておりまして、対応が遅くなりました。
2019年3月5日に閲覧しています。「真社会性昆虫の血縁度の計算」の下の図の中に、「遺伝子が1本ののものがメス」と書かれていますが、それは誤りです。正しくは、「遺伝子が1本のものがオス」ぐらいでしょうか。
また、「遺伝子が2本のあるものがメス」と書かれていますが、「遺伝子が2本あるものがメス」もしくは、「遺伝子が2本のものがメス」に書き直されてはいかがでしょうか。
鈴木清さん、コメントありがとうございます。
ご指摘の通り間違っておりましたので、修正をさせていただきました。
コメントをいただいていたことを失念しておりまして、対応が遅くなりました。
2019年3月5日に閲覧しています。
“これを踏まえて、「四角で囲んだメス」から「姉妹のメス」を見た場合の血縁度を考えてみる。”の下に、
「メス → 父親 → 姉妹 = 100% × 50% = 50%(2分の 1)」
と記されていますが、真ん中の「100% × 50%」を
「50% × 100%」にした方がわかりやすいと思います。
「メス → 父親」の次に「父親 → 姉妹」であり、「メス → 父親」の血縁度が50%、「父親 → 姉妹」の血縁度が100%なので。
鈴木清さん、コメントありがとうございます。
ご指摘の通り間違っておりましたので、修正をさせていただきました。
コメントをいただいていたことを失念しておりまして、対応が遅くなりました。
「そのため、自ら子供運で育てるよりも」 のところは、「産んで」 でございます。皆さん、厳しいですね、私は、まず、感謝をお伝えしたいと思います。テレビで「僕らは奇跡でできている#05」を見ていて、血縁度という言葉が出てきたので、ここに、たどり着きました。利己的な遺伝子は知っていましたが、読んでいないので、大いに助かりました。だって、分厚い本ですものね。
感謝、感謝、ありがとうございます。
浅井一正さん、コメントありがとうございます。
ご指摘の誤字の箇所、修正をさせていただきました!
間違いの指摘に関しては、興味のない記事ならばスルーをされるものだと思いますので、間違いを指摘していただけるくらいには興味を持っていただけているものかと思っておりまして、ありがたく思っております。
自分でチェックはしていますが、自分のチェックで完璧にするのはなかなか難しいですからね...