リチャード・ドーキンスの「利己的遺伝子論」とは?

進化論・遺伝学・利己的遺伝子論の基礎

リチャード・ドーキンスの利己的遺伝子論

 

利己的遺伝子論とは?

 
利己的遺伝子論とは、生物の進化や自然淘汰(自然選択)を生物の個体を中心とした見方ではなく、遺伝子中心の視点で理解する理論のこと。
 

これまでの生物の進化や遺伝に対する視点

 
リチャード・ドーキンスの「利己的遺伝子論」_02
 
これまで紹介した「ダーウィンの進化論(種の起源・自然選択説・自然淘汰説)とは?」や「メンデルの法則(優性の法則・分離の法則・独立の法則)とは?」などを始めとした生物の進化論や遺伝の法則論、自然淘汰説などは生物の個体を主役として考えられてきた。
 
自然の中で淘汰されて生き残った個体はその環境の中では生きていく上で適した特徴(形質)を持っており、その特徴を持った子孫が生き残り繁栄する。
そして、生物個体が次の世代に子孫を残していくために、遺伝という仕組みを使って次の世代に自分の持つ特徴(形質)を伝えていると考えられてきた。
 
今でも多くの方が持つ「生物の進化」「遺伝」「遺伝子」のイメージはこちらだろう。
 
 
しかし、それでは説明できない事例も存在する。
 
例えば、ハチやアリなどの真社会性昆虫たちだ。
ハチやアリの群れの中には働きバチや働きアリなど一部の個体は全く生殖をせず、他の個体の繁殖を助けることに一生を費やすものがいる。自然淘汰説では、これらの自分の子孫を残さない形質(特徴)は個体群から消えてしまうはずである。
しかし、実際にはそのような種が存在しているが、自然淘汰説(自然選択説)では、その現象を上手く説明することが出来なかった。
 
それに対して、利己的遺伝子論ではこれを上手く説明することが可能なのだ。
 
 

利己的遺伝子論での進化や遺伝の視点

 
我々ヒトを始め多くの生物では、自分の子供は、自分の遺伝子の 50%(2分の 1)を受け継ぐ。
両親から半分ずつの遺伝子を受け継ぐため分かりやすい話だ。
この場合「血縁度」は 50%と表現する。
 
しかし、ハチやアリなど真社会性昆虫は、オスの染色体は半数体(染色体の数が半分)である。
この場合、メスのハチから見た娘の血縁度は 50%なのだが、妹の血縁度は 75%(4分の 3)となるのだ。
詳しい血縁度の計算方法は「血縁度とは?利己的遺伝子論の理解のための遺伝子を受け継ぐ確率の高さ」を参照されたし。
 
そのため、娘を育てることと妹を育てるコストが同じならば、自分で娘を生み育てるよりも妹を育てる方が遺伝子的な視点で見た場合、メリットが大きいのだ。
遺伝子的な視点で見たメリットとは、自分と同じ遺伝子をより多く残すことが出来る、と言うことだ。
 
働きバチや働きアリの行動は、個体としては利他的だが、遺伝子的には利己的であるということになる。
 
このように遺伝子視点から見て、遺伝子の持つ遺伝情報をより多く次の世代に伝えていけるか、と言う視点で生物の進化、遺伝を考える理論が利己的遺伝子論なのだ。
 
 
この利己的遺伝子論は、1976年にドーキンスが「The Selfish Gene(利己的な遺伝子)」で一般向けに解説したことで広く受け入れられるようになり、ドーキンスが代表的な研究者と見なされているが、1970年代に入った頃からジョージ・ウィリアムズ、エドワード・ウィルソンなどによって提唱された理論だ。
 
 


 

「生物個体は遺伝子の乗り物に過ぎない」とは?

 
利己的遺伝子論がドーキンスの理論のように言われるのは、ドーキンスの表現が刺激的だったことも理由の一つだ。
 
 遺伝子は利己的な振る舞いをする。
 
そして
 
 生物個体は、遺伝子によって利用される“乗り物”に過ぎない。
 
と表現し多くの人々に衝撃を与えたのだ。
 
 
生物個体は寿命が来れば消えてなくなるが、遺伝子は子孫に受け継がれ不滅な存在であるからこそ、「遺伝子こそが主役であり、生物個体は遺伝子の“乗り物”に過ぎない」と表現したのだ。
生き残り戦略によって生き残るのは、「生物個体ではなく“遺伝子”なのだ」と。
 
 
ただ、利己的遺伝子論を理解する上で間違ってはいけないことがある。
「利己的遺伝子」とは比喩表現であると言うこと。
 
 利己的遺伝子論は、遺伝決定論や還元主義ではない。
 利己的遺伝子論は、遺伝子が意志を持って振る舞うという意味ではない。
 利己的遺伝子論は、生物固体の振る舞いが常に利己的という意味ではない。
 利己的遺伝子論は、遺伝子だけが価値があるもので、生物固体は無価値だという意味ではない。
  (ウィキペディア「利己的遺伝子」より)
 
 
利己的遺伝子論で言う「利己的」とは「自己の成功率(生存率と繁殖率)を他者よりも高めること」と定義され、「利他的」とは「自己の成功率を損なってでも他者の成功率を高めること」と定義される。
しかし、利己的遺伝子論で言う「利己的」「利他的」という表現は、日常的に使う「利己」のように個人の意図や意志を表す言葉ではなく、行為全体をその結果のみに基づいて分類した用語である。
 
つまりは、進化や遺伝を遺伝子視点で見たとき、遺伝子が意志を持っている持っていないにかかわらず、“結果として”自己の遺伝子をより多く後世に残して行くことが出来ているので、「遺伝子は利己的」と考えるのだ。
 
 
このように、進化や遺伝を遺伝し視点で理解すると様々なことが上手く説明できるようになった。
その理論が「利己的遺伝子論」なのだ。
 
 

リチャード・ドーキンスの利己的遺伝子論に関連する情報

 

クリントン・リチャード・ドーキンス

Clinton Richard Dawkins。1941年03月26日~。イギリス。
 

ジョージ・クリストファー・ウィリアムズ

George Christopher Williams。1926年03月12日~2010年09月08日。アメリカ。
 

エドワード・オズボーン・ウィルソン

Edward Osborne Wilson。1929年06月10日~。アメリカ。
 

真社会性昆虫

同種の個体が集まる生物の集団の中で、個体間に分業が起こり(様々な階級を持ち)、個体の協力によって個体群全体の生命を維持する昆虫のことを社会性昆虫と言う。社会性昆虫は集団から離れ単独での生存は難しい。
その社会性昆虫の中で「不妊の階級」を持つものを「真社会性昆虫」と呼ぶ。

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